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2011/12/09 update
環境と意匠。他分野の取り込みで海外と闘うイスメーカー
3社のプロが共同開発したエコプロダクト
カラフルな子ども用の折りたたみイス。よく見ると管の部分が紙で出来ている。木製とは異なるあたたかみがあり、なんとも程よい親近感を感じてしまう。
名前は「HECMEC(ヘックメック)」。Heartful Ecology, Message and Education for the Children of the futureの頭文字から名付けられたエコプロダクトだ。
このHECMECの販売元、株式会社サンケイは、イスの製造メーカーとしては早くから環境への企業活動を続けている三重県の企業。2009年に発売されたこのHECMECは、「エコプロネット」を通して集まった、株式会社コボ、株式会社フルハシ環境総合研究所、そして三惠工業株式会社(株式会社サンケイの製造部門)の3社が共同で開発した環境にやさしい折りたたみイス。
エコプロネットとは、中部地域の強みであるモノ作り技術・ノウハウに、環境配慮設計(エコデザイン)手法の導入を促進し、それを用いた製品(エコプロダクツ)の開発・普及を進める、中部経済産業局の声掛けのもとはじまった産学連携のプラットホームのこと。そこからデザイン事務所、環境研究所、イスの製造メーカーと、まさに各分野のプロが手を施し、この逸品が生まれた。
HECMECの開発を担当した三惠工業株式会社開発部の松本さんに、どのように開発が進められていったのかを伺った。
「環境という共通点から集まったこの異業種3社だからこそできるイスってどんなものだろう?というところから話が始まりました。そしてやるからには他にはないイスをつくろうと。コンセプトは『持続可能な開発』『"ひとづくり""ものづくり"DNAの伝承』『人にやさしいデザイン』。開発の段階から地球環境や人、特に子どもへの配慮を考えていました。」
エコプロネット
「まず持続可能な素材として、成長が速く、環境にもやさしい竹と木を使用しましたが思うようにいきませんでした。竹は実際作ってみると割れて座れない。木製は美しいのですが、子ども用にしては重すぎる。それにありふれていて、新鮮さには欠けていました。」
そんな試行錯誤を繰り返し、素材を吟味していった結果生み出されたのが、リサイクルした紙を筒状の管にして使用することだった。そうすることで質量は軽く、強度が増し、さらにはリサイクルしやすく、金属に比べると製造工程でのCO2排出量が40%も削減できるのだ。
「そこから簡単な骨組みをつくり、デザインを依頼し、はじめて形が決定します。そして再度開発部が、工場の製造ラインへ乗せられるよう図面を起こしていきます。」
作業は開発にはじまり、幾度となり開発に戻ってくる。一つの商品が出来上がるまで、この開発部が担う役割はとても大きいようだ。
HECMECのホームページ
「責任重大ですね。この開発部というのは新たな商品を生み出す一番初めの窓口ですから。その段階で、ここの方向性が間違ってしまうと大変です。いかにデザイナーのイメージ通りに作れるか、採算は合うのか、工場のラインに乗せることができるのか、そういった面をすべてクリアして商品化できるようにする、そこが開発部の力の見せ所です。」
その努力が功を奏し、このHECMECは発売したまさにその年に、エコプロダクツ大賞の審査員特別奨励賞、第3回キッズデザイン賞商業デザイン部門、2009年グッドデザイン賞という名誉ある賞を3つも受賞したのだ。
この新たな分野へも積極的に関わろうとするサンケイの姿勢は、どのような背景からきているのだろうか。
打倒!海外製品
昭和26年名古屋市に自転車のブレーキ製作所として設立された株式会社サンケイ。その後、スチール家具の製造、販売を経て、昭和30年頃から折りたたみイスの製造、販売に特化し、現在の会社名となる。
「先代の社長が折りたたみイスに目を向け、会社設立から数年でイスの生産を開始し、ちょうど東京オリンピックで需要が高まり、その時流に乗って成長してきました。現在は折りたたみイスに加え、会議用のスタッキングイスにも力を入れており、そのOEM生産が実に7割を占めています。」
と営業部の岡田さん。
同敷地内、三惠工業株式会社製造部の工場では二手に分かれ、折りたたみイスと、スタッキングイスの双方が常に量産されており、その需要の高さがうかがえる。
工場の様子
「ただ、ピーク時に比べると生産は下降気味です。その原因が海外製品の価格の安さ。ここ10年程、国内の同業者よりも海外製品との競合が激しさを増しています。国産のイスは「品質」「強度」「デリバリー」どの点を取っても海外より上回っているのですが、何より、『価格』という点で太刀打ちができないのです。」
そこで新たな道を築いていこうと、5年程前から意匠や特許で他社との差別化に挑戦してきたサンケイ。その一例がさきほどご紹介したエコプロダクト『HECMEC』である。
「脚下照顧」という理念
「今でこそ企業の環境への取り組みは珍しくありませんが、他社との差別化には意識が高かったのでしょう、業界でも先手を切り、取り組みを始めてきました。1967年には日本工業規格(JIS)の認定工場に、また1999年に国際品質マネジメントシステム規格「ISO9001」、翌2000年には「ISO14001」の取得をしています。」
と岡田さんは言う。
日本の中小企業がここまで環境に対して徹底的に取り組んでいる一姿勢を示す、とても大きな国際規格だ。
「しかし、それでもまだ価格では勝てませんね。今や海外製のイスはホームセンターで1,000円以下で買うことができます。けれども海外製の安価なイスでJIS規格等をクリアできる製品は非常に少なく、買う段階で一般の人にはそのことがわからないんです。」
ではその価格に対しての対策は?
「海外の日系企業にアプローチを掛けたり、ときには納期を縮めて迅速な対応をするなど、サンケイだからこそできることがあります。しかし何より誇れるものは、やはりこの『品質』。良い例で、学校などで使われているご存知のパイプイスはすぐに壊れたり、ましてや安全性に問題があってはクレームの対象です。その品質を実感してまたサンケイのイスに戻ってきてくれるお客様もいらっしゃいますし、海外ではできない技術と品質がここにはあるのです。」
耐久性の実験は
5,000回繰り返される
そう気付かせたのは、「足下を見よう、一から見直してみよう」というサンケイの理念『脚下照顧』。そこから見えてきたものは、やはりイスをつくり続けてきたメーカーとしての誇り。そこへ返り、今なお株式会社サンケイでは営業部と営業企画部が、そして三惠工業株式会社では製造部、開発部、技術部が、お互いに専門分野を見直し、日々品質の向上に努めている。
挑戦させてくれる自由な社風
「何でも「やっていいよ」という雰囲気がありますね。できるかできないかは別にして、まずはチャレンジしてみること。そんな社風が三惠工業のいいところだと思います。」
と松本さん。
岡田さんも深くうなずく。
「それは先代の社長からの教えですね。開発に限らず、営業にもその風潮は浸透しています。妥協することに進歩はありませんから。」
サンケイと三惠工業の挑戦を厭わないその姿勢が、新たな販路をつくっているのだろう。
挑戦から生まれたこのHECMECはまだ始まったばかり。環境という点では高い評価を獲ているが、まだまだ改良の余地があるとのこと。
また、この『HECMEC』というひとつのブランドが立ち上がったことで、今後はイス以外の周辺家具の提案ができるのでは、と意気込む2人。
これぞ国内メーカーの底力。
サンケイの挑戦はこれからだ。
(寺島)
イスのかたちをした
サンケイのロゴ
スタッフ紹介
岡田 幸雄
【所属】株式会社サンケイ 営業部
【職種】営業(取締役営業部長)
【入社年】1975年4月
【出身校】東京都立工科短期大学
【血液型】A型
【特技他】バスケットボール、気がかりはメタボ体質で運動不足な事。
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入社して36年。ちなみに私も以前は開発部でした。一番初めの窓口である開発部の考えが今後のサンケイの向かう先。開発部そして製造部によってできたかたちを営業の我々が世に送り出す、この連携こそがサンケイの誇りです。
松本 正樹
【所属】三惠工業株式会社 開発部
【職種】設計
【入社年】2000年
【出身校】三重大学
【血液型】A型
【特技他】車いじり、ダイビング、子どものおもちゃ作り
★ワタシPR★
新商品の開発や既存商品のリニューアルなどを担当しています。設計から商品化まで一貫して携わることができるので、仕事内容は広く、商品が世に出たときに一番やりがいを感じます。またその商品がお客様の支持を得たときの達成感は大きいですね。今後は安全、安心だけでなく、なにかしら感動を与えられるようなものづくりをできればと思っています。