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2012/03/05 update
地域社会を活性化させる、新しいまちづくりを
そこで暮らす人、働く人にとって心地よい空間や環境とはなんだろうか。
建築設計やインテリアなどの住空間デザインから、市場分析に基づいたコンセプト立案、ブランド戦略のほか、グラフィックやプロダクトのデザイン提案まで幅広い領域で事業を展開している有限会社タイプ・エービー。
主宰を務めるのは、名古屋工業大学大学院の准教授(芸術工学博士)でもある伊藤孝紀さん。ビジネスと研究の両面から都市や地域のあるべき姿を考え、新しいまちづくりを提唱している。
棚の上に積まれた建築模型・
住宅模型
建築家として、また研究者として、多忙な日々を送る伊藤さんが常に心に抱いているのは、過去のある出来事から生まれた想い。その想いが伊藤さんの活動を支えている。
人のため、社会のため、自分にできることをやる
伊藤さんは17歳の時、高速道路で大きな交通事故にあった。頭部を激しく強打し、4日間生死をさまよったという。今でも頭蓋骨には、掌ほどの大きさの人工骨が入っているのだとか。
「死んでもおかしくなかったほどの事故だったのに、僕は運が強いのか、命も落とさず重い後遺症も残らなかったんです。当時、同じ病棟に僕と同じように交通事故で入院している同い年くらいの女の子がいて、彼女の車いすを押しているおばあさんが、ある日僕に話しかけてくれたんですよね。」
『この子も数日前までは、あなたと同じように元気だったの。でも今は、もう何も感じなくなってしまった』と。
「その時、心の底から思ったんですよ。あぁ僕は生きている、感じることもできるって。そして、生きているのなら、なにか人のためになることをしよう、社会のためにできることをしようと決めたんです。」
5つの指針
その想いをカタチにすべく、伊藤さんは大学在学中の20歳で起業した。
「自称プレゼンマニア(笑)。街を歩いていて疑問に思うことや、もっとこうした方がいいと思うことを、とにかく企画書にして行政や企業に提案しまくっていました。経験がないから、やっている内容は未熟だけど、スタンスは今も変わらない。」と、振り返る。
知識も経験も浅かった起業当初は壁にぶつかることも多い。道に迷いそうになったり、悩んだりすることがよくあったという。
「そんな自身のためにつくった5つの指針があってね。『決断力』『行動力』『努力』『継続』『想い』。」
まずは決断する。頭の中で考えているだけじゃ何も進まないから、まずは決断すること。次に、ちゃんとそれを行動に移すこと。ただ動くだけじゃなくて努力もする。行動も努力も1回では意味がないから、それを継続して、続けること。でも続けることは、結構大変。なかなか結果が出ないと途中で折れそうになったり諦めたりしそうになる。そんなとき、最初の想いに立ち返る。「自分は、なんのために取り組んでいるのか」。
そうやって自身の活動を確認するための指針なのだそうだ。
研究とビジネスの両輪で社会と向き合う
学生時代から、大阪十三(じゅうそう)の駅前再開発や沖縄でのファッションイベントなど、さまざまなプロジェクトに関わるなかで、もっと高い目標を実現するにはビジネスだけでは限りがあると感じ、伊藤さんは働きながら博士号を取得。
「祖父が研究者だったことが影響しているのかもしれませんが、大学の研究室が身近な存在だったんですよね。」
学生時代に企画した沖縄での
ファッションショーと仮設店舗の
デザイン
こうして伊藤さんは、建築家と研究者の2つの顔を持つようになったわけだが、両者にはそれぞれ役割があり、互いにコミットしているのだという。
研究室では基礎調査や研究、社会実験を。ビジネスの場では研究成果の実践を。
「たとえば現在、研究室ではコミュニティサイクル(自転車の共同利用サービス)のシステム構築とデザインを学内で実証実験しています。どんな人達がどんなシステムだと使いやすいか、どんな色やデザインならその地域らしいのか。デザイナーの感性や発想に頼るのではなく、ちゃんと市場を分析したうえでのデザインを考え、検証しています。」
こういった実験や検証の結果、ビジネスとして成立するとなったら、その道のプロフェッショナルや専門の企業にバトンタッチする。
「まちづくりのような大きな取り組みは1社だけではできません。たくさんの企業を集めたり、行政を絡めないとできないこともあるんです。そういう意味で大学という存在は、産学官を連携させる潤滑油としての役割もありますね。」
電子マネーの実用化に向けた
実証実験
創作するのではなく、演出する
伊藤さんは「演出」という視点を大切にデザインしているという。
新しいモノをゼロから創るのではなく、今あるモノを活かして新しい街をデザインする。
今、街はさまざまな課題を抱えている。社会に必要なインフラや設備はほとんど揃っているのに、活気があり暮らしやすい街かというと、部分的に空洞化している地区があったり、子育て環境が不十分だったり。。。
それを解決する一つの方法が『環境演出』だと伊藤さんはいう。
「環境演出とは、既存の環境を活かしながら、建築や都市インフラなどハードだけでなく人間の心理や行為などカタチのないものまでを含んだ横断的なデザインのこと。今あるさまざまな環境に13のエレメント※を用いて、新しい価値を創造していくんです。」
※環境演出における13のエレメント…1.affordance、2.progress、3.share、4.scape、5.diversity、6.matching、7.guide、8.fake、9.style、10.renovation、11.score、12.fractal、13.pride
歴史的背景と現代の潮流をふまえたうえで、小さい物から大きな物までデザインし、その街の魅力を引き出すソリューションを提案するという考え方は、まちづくりだけでなく、企業ブランディングや建築設計も同様だという。
「もともと持っている技術や人材を活かして、新しい商品や新しい事業を生み出すことは、既存のものを活かして新しい価値をつくるという点でベースは同じです。住宅の設計も基本は一緒。その家族構成はもちろん、ライフスタイルも読み込んでカタチにする。ただ箱(住宅)を作るだけじゃなくて、建てる場所・環境に合った外観のデザインから、キッチンのあり方、インテリアの提案まで統一して演出するという手法は、どれも同じなんですよ。」
伊藤さんは、個々のデザインがバラバラにならないよう、全体を俯瞰(ふかん)して捉える。そして「虫の目線」「鳥の目線」で、あらゆる角度から仕掛けを施す演出家なのだ。
既存の建材・照明器具を利用した
結婚式場の改装例
さまざまな仕掛けが施された
親子カフェ併用住宅
地方都市ならではのポテンシャル
伊藤さんは名古屋を拠点に活動している。東京や大阪ではなく、なぜ名古屋なのだろうか。
「一昔前までは東京や、世界で言えばニューヨークやミラノのような大都市が文化の中心だった。でも、もう大都市に憧れる時代じゃないと思うんです。名古屋のような地方都市でも、その地域ならではの魅力はたくさんある。むしろ完成されていないからこそ、ポテンシャルがたくさん潜んでいると思うんですよね。それを引き出したい。」
大きな取り組みや、改革でなければ街が動かないわけではない。市民活動やNPOの活動、一つひとつは小さなことかもしれないけれど、それを続けていれば、いつか大きなムーブメントを引き起こすことができるのではないかと伊藤さんは考え、仲間を集め、活動している。
道側がガラス張りで、オフィス
からは街行く人がよく見える
それを支えているのは、あの想い。
「この地域に、この社会に、自分ができることはなんだろうか。自分はなにをすべきなんだろうかという想い。それが僕のすべてを支えているんです。あの交通事故の後から、それはずっと変わらない。」
伊藤さんのお話を聞き終わると、なんだか心がワクワクしてくるのを感じた。
きっとこの街は、これからもっと魅力的になるんだろう。
そしてこの街が大好きな私は、もっともっとこの街を好きになるんだろう。そんな予感がした。
(ゆき)
スタッフ紹介
伊藤 愛子
【職種】一級建築士
【出身校】東京理科大学工学部建築学科
【血液型】A型
★ワタシPR★
建築設計・監理を担当しています。
彼の仕事への思い、真っ直ぐな気持ちに共感し、結婚後一緒に働くことになりました。
住宅の打合せの際は夫婦でお話をお伺いします。
主婦・母親の視点も加え、お客様の思いを実現出来るよう心がけています。
高橋 里佳
【職種】デザイナー
【入社年】2008年4月
【出身校】名古屋大学大学院 環境学研究科
【血液型】AB型
★ワタシPR★
大学では建築を専攻。
卒業後は建築だけでなく、いろいろなデザインをしたいと考え、大学の先生にこの会社を紹介してもらいました。
主な仕事は設計やコンセプト立案、デザイン全般です。
将来は、幅広い視点から暮らしのスタイルを提案できるデザイナーを目指しています。