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2011/11/02 update
モノ作りの原動力となる、本当のデザイン
多くの場でデザインの活かし方が問われ、中小企業とデザイナーを結びつけようとする取り組みが行われている昨今。しかしながら中小企業とデザイナーとの出会いや商談の場を提供しても、実際に仕事につながることは難しいのが現実だ。
そんな中、「次の世界に求められるものはいったい何かを感じとり、提案することこそが本物のデザインだ!」と断言し、様々な産業の新たな可能性を導きだしながらも、多業種の人々とを見事に結び付けている人物、デザイン事務所「コボ」の代表取締役山村真一さんにお話を伺った。
株式会社コボは工業デザインの分野にとどまらず、素材開発や、技術を商品化するまで、企画からトータルにデザインを手掛けるなど、幅広い分野で活躍している名古屋の企業。
社名からデザインという言葉を省いてしまっているところにも山村さんの言わんとするデザインの本質がありそうだ。
「企業が求めているものが表に出てこない」ことこそ、企業とデザイナーが
繋がらない理由
「場所を提供し、かけ声だけで集まっても、なかなかデザイナーと企業は結びつかない。何故かというと、それぞれが考えている世界が違いすぎるからなんです。」
山村さんが約40年間取り組んでいる活動「デザインマネージメントセミナー」では、実際にプロジェクトを作り、企業とデザインを結びつける手伝いをしている。そこで分かった事が、「企業として何をデザイナーにして欲しい(してもらったら良い)のかが見えていない」ということだった。
会社を興す前、三菱重工業の商品企画室に勤めていた山村さんは、市場予測をしながらグループ内の様々な業種のマネジメントを行う仕事をしていた。その仕事の中で、「次世代の流れを読み、どの分野に人員を増やしたり、資金を投入したり、どう活動させたら良いのかを考えることがデザインだ」と確信していたという。
しかし実際、流通の現場を見ると、いかに表面的な色や形ばかりにとらわれたデザインが多いことかと落胆する。時代の流れか、そのような仕事が多くなってきた頃、
「このままではデザインの仕事がなくなってしまう。」そう感じ、
会社を辞め、総合的なデザインに取り組むべく1973年にコボを設立した。
28歳の若さだった。
「デザイナーは見えないものを探り出して行くことがとても大事。」
と山村さんは言う。
「けれども、デザイナーは物を売ってから資金回収するまでのタイムラグがあることを、意外に知らない。経済や、企業の経営についての知識が乏しいのも問題だね。だからデザインは"図案・模様・飾り"だけと言われてきたんだ。実際に日本ではそういう教育しか受けていないので仕方がないのかもしれない。しかしこれからは、企業の"商品をどうしたら良いか?"という問いをひも解き、何をデザインするべきなのかをデザイナーに伝える、そのような人物を育てることも、企業とデザイナーを結びつけることだろうね。」
と力を込めた。
「新商品」のきっかけづくり
企業からの「自社の技術がどのように活かせるのか」という問いに答えながら、新たな商品誕生のきっかけを作ってきたコボの仕事を通して、"企業とデザイナーを結びつけること"とは具体的にどういうことなのだろうか。
- 新たなライフスタイルの中で輝く「九谷焼」-
石川県では、上絵付けの技術を生かした伝統工芸「九谷焼」が発展し、古くから置物が多く作られてきた。しかし、現代のライフスタイルでは、置物を飾る部屋が減ってきていることに比例し需要も減っていく。
そこで"機能的な新しいものを"と提案したのがワイングラス「九谷物語」だ。金属の脚に「九谷焼」のカップを合わせたデザインだけでなく、応接間の戸棚にあるケースから取り出してワインを楽しむことをイメージしたこのグラスは、ワインブームに乗り大ヒット!
異なる素材を接着し、ひとつの商品を生み出すこの技術は、次第に世界でも話題となり「バカラ」や「スワロフスキー」といった有名ブランドからも、「うちのカップを使って九谷焼の脚をつけてほしい」という依頼が入るまでに成長したのだ。
ここで重要なのが「いずれ世界に注目される」という展開が訪れること。それをある程度予想し、金属とセラミックの接着剤に「国際特許」を取得していたということだ。
「このような伝統産業物で、海外に納めている例は非常に少ないのではないだろうか。なぜなら日本の産業は、"知的財産"に対する考えが甘く、自分で自分のものを守る仕組みができていないから。そういう情報を知らなすぎるんですよね。」
いくら先見の目があり素晴らしものを作り出しても、自分のものは自分で守るという防衛の知識を得ることも企業には必要なのだ。
ガラスと九谷焼のワイングラス
- 中小企業を大企業に!デザインの可能性に制限はない。
鉄工所が風力発電に挑戦。 -
商品開発を考えるようになったとある鉄工所から相談を受けた事例では「図面をもらってモノを作るだけでなく、自分達から企業に提案していきたい」という社長の思いに、山村さんは「環境をやってみないか?」と提案。そこで風力発電に取り組むことにした。
模型を作り構造を試行錯誤し完成したのは、直径1メートルほどの小型風力発電機で、そのものが街路灯の代わりにもなるというもの。研究段階で実際にまわしたり、風の方向を検討したり、
「ふつうデザイン事務所はここまでやらないよ。」
という部分にまで辛抱強くお付き合いする。
実はこの発電機が発表されたのがちょうど東日本大震災の直後。
それまでは、町の鉄工所が「風力発電」に取り組むこと自体、馬鹿げていると考える人も多かったという。
しかし、2011年8月に『電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再生エネルギーの買い取り法)』の成立が追い風に、一気に社会の動きが変わり、注文が殺到し始め、なんと生産が追いつかない状態に。今では鉄工所の本業よりもこの仕事の方が多くなりつつあるという。そんな事実に、
「今度お会いする時は風力発電のメーカーになっていると思いますよ!」
と満面の笑みで山村さんは語る。
コボが示すものは色、形ではない。新たなコンテンツを生み出すことなのだ。
コボではその他にも石川県の珠洲焼を使った産業復興や、瀬戸の再生陶器を使った医療機器の開発、また、最先端の技術と伝統技術を組み合わせた地域復興のプロジェクトなど、関わる業種、そしてその示すかたちは実に幅広い。
珠洲焼の丼を使った産業復興
デザインはデザイナーだけのものではなく、みんなのもの
「経営者も営業も社長の奥さんも、みんながデザインを考えればいい。それをある程度まとめた形、見える形にしてくれるのがデザイナーなんです。」
近頃は、より多様で横断的な視点が求められるようになってきていると山村さんは考えている。
デザインの基本は「観察すること」。
モノを観察できないと次の一歩がわからない。だから予測する前に観察をする。そうすることで、将来はどうなっていくのかということが考えやすくなるのだという。
私たちは、デザイン自体に専門性があると思いがちだが、
「デザイナーは専門性がなく、汎用的なところが本当は良いんだよ。楽しく豊かなライフスタイルは、あらゆる分野を自由に動くことができ、様々な情報を持っているデザイナーだからこそ発想することができるんだから。」
そういう山村さんの考えがとても新鮮に感じられる。
そう考えると、世の中にある素晴らしい技術や、伝統的な美しさ、ユニークな思想など、ありとあらゆる素敵なものを結び付けることがデザインなんだ!と思えてきて、これまで当たり前に目に映っていた何気ないものたちが、急に楽しく見えてきた。
スタッフ紹介
村松 甫
【所属】第3事業部
【入社年】1987年
【血液型】O型
★ワタシPR★
私たちの仕事はモノづくりではなく、『コトづくり』。結局最後は「人」です。人との出会いから何かが生まれてきますから、そういう場をつくることもやっています。それもコボにしかできない仕事のひとつ。人と人が交差する、そんな場に出会えることはとても面白いですね。
大口 二郎
【所属】企画部
【入社年】1994年
【血液型】O型
★ワタシPR★
デザインは色かたちだけはありません。個人でも企業でも、どういったものをつくっていったらよいか、どういったものが求められているのか、はじめから一緒になって考えられる広い視野や企画から入っていける能力が必要ですね。
著書『稼ぐ「デザイン力!」−経営者・管理職のためのデザイン戦略入門−』