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2011/09/09 update
+アイデアで、日本の伝統木工品”枡(ます)”の新たな価値を創っています。
奥の細道むすびの地、岐阜県大垣市は枡の町
あなたの家に"枡"はありますか?
"枡はもともと体積を計るために生まれた測定器。計量法の施行により、尺貫法が日常的に使われなくなった現在では見かけることが少なくなった、古来より続く日本の伝統的な道具だ。その歴史は1300年というから驚き。
長い歴史を誇る日本の枡、その80%が岐阜県大垣市で作られていることをご存知だろうか。大垣市は枡の町なのだ。
9月初旬、雨上がりのどんよりとした曇り空の下、木枡製造メーカーの大橋量器を訪ねた。
大垣の日本一 桝(ます)
JR大垣駅から徒歩15分ほど。水路わきの道を歩いていくと、ヒノキのいい香りと活気のある人声がしてきた。「いやーどうも、どうも。ご苦労様です。」気さくな笑顔で迎えてくれたのは、社長の大橋さん。
工場に隣接するアンテナショップでそのままお話を伺うことに。ショップには祝いの席などで配られる一般的な枡と、これが枡?と思ってしまうような商品が所狭しと並んでいる。
たとえば「マスト」。船の様なカタチをした商品だが、ヒノキの清々しい香りと適度な水分を空気中に自然発散してくれる、電池もコンセントも不要のeco加湿器。よく見ると水を張るボート部分は枡でできている。職人の技が随所に見受けられ、繊細で美しいオブジェのようだ。この商品は、プロダクトデザイナーの岡田心さんとのコラボレーションによるもの。他にも、枡の素材であるヒノキの香りと中に詰められたアロマソルトが楽しめるバスアイテムMathsalt(枡ソルト)や、枡でできたビールジョッキ、ステーショナリー、携帯ストラップ、雑貨などなど。
マスト
大橋量器は、枡の概念にとらわれない斬新なアイデアで次々と商品を開発している。その源はなんだろうか。
外資系コンピュータ会社から、ものづくりへの転身
大橋さんは、大橋量器の三代目。家業を継ぐ前は外資系大手のコンピュータ会社にいたという。「僕が大学を卒業した当時はちょうどバブルの頃で、外資系はみんなの憧れ、コンピュータ業界は伸び盛りという時代でした。」大橋さんは時代の最先端をいくハイテク業界で6年間勤めた。「毎日が刺激に溢れていて楽しかったし、営業として仕事にやりがいも感じていました。」
そんな大橋さんに転機が訪れた。結婚だ。
「父親にそのことを伝えたら、「結婚するなら近いうちに地元に戻れ。家業を継いで身を固めろ」と言われたんです。」
子供の頃から枡を作る祖父や父親を見て育った。「自分は長男だから、いつかここを継ぐのだろう、と漠然と思ってはいました。家業を継ぐのが嫌だった訳じゃないです。でも華やかなハイテク業界から、いきなり超ローテクの枡づくりでしょ。すぐには決めず、しばらく父親の下で勉強しながら考えることにしました。」
「初めて出社したのは冬の寒い日でした。まだ日が昇る前の工場の外で、年配の職人が火をくべて暖をとっている姿を見たんです。なんかすごい寂しさを感じて…。この選択は正しいのか、と正直迷いました。」
2年迷って、最後は覚悟を決めたという。
「自分を育ててくれたのは、やっぱり家業の枡ですから。そのトップとしてやってやろう!という気になったんです。」
ところがいざ家業に入ってみると、経営はかなり厳しい状態だった。「想像以上に売り上げが減少していたんです。子供の頃、父親から聞いていた数字の半分程度しかなくて、このままではマズいと、全国各地を営業しに廻りました。」
「自分の商品に誇りを持ちなさい」
最初はなかなか上手くいかなかったという。
「相手にされないことも多かったです。「枡?枡はウチは必要ないねぇ」って。安くすれば売れるってわけでもないし、やはり枡づくりは衰退業界なのかなと思い始めていました。」
枡の将来に明るさを見出せず、華やかだった時代の同僚に劣等感を感じることもあった。
そんな時出会った年上の女性経営者。その言葉が大橋さんの意識を変えた。
『あなた、自分の会社を"時代遅れの枡だけ作っている会社なんですけど"って言うのはやめなさい。自分の商品に誇りを持ちなさい。』
「それから自分の中でなにかが変わりました。だんだんとやる気がわいてきたんです。」
ある日、たまたま家にあった雑貨に付いていた商品タグの電話番号が目につき、電話をかけてみた。「結構有名なブランドの商品だったので、相手にしてもらえるか不安だったんですけど、会ってくれるって言うんです。」大橋さんは、すぐに東京に飛んでいった。
「どんな枡でも作ります!と話したら「赤や黒に塗ることはできる?」と提案されました。実は塗りには抵抗があってやっていなかったんですよね。塗りを施すと、ヒノキの木目が見えなくなって木のぬくもりがわからないんじゃないかと思っていたので。」ところが、やってみたら意外な結果に。「確かに木目は見えにくくなりました。でも手に取ると、ちゃんと木のぬくもりが肌に伝わってくる。プラスチックの器とは質感が全然違うんです。試作品は大好評でした。」
一つひとつ職人が作る商品は、大量生産することができない
記念すべき新商品第1号の誕生ですね!
「ええ、まぁ…。でも結果的には失敗だったんです。」
え?すごくいいものができたのに?試作品は大好評だったのに?
「試作品は大きな展示会にも展示してもらって、製造が間に合わないほどの大量注文がきました。工場フル稼働で作ったんですけど、間に合わない。結果、納期遅れを起こした挙げ句、不良品による返品がたくさん出て…。途中で断念することになりました。」
一つひとつ職人が手で切り出し、組み立てる特別な商品は大量生産することができない。設備も充分に整っていなかった。第1号は残念な結果になってしまったが、大橋さんは諦めなかった。むしろ新商品開発に大きな可能性を感じたという。
組みの工程
「今まで枡に見向きもしなかった業界が興味を示してくれるようになったんです。それからいろんな企業から、いろんな注文がくるようになりました。」
一度にたくさんは作れないけど、どんな注文にも少しずつ応えるようにしていたら、工場の中には長方形や八角形やすごく小さいものや、いろんなカタチの枡が転がっていることに気が付いた。
「これはもったいないなと。一生懸命心を込めて作った商品が工場に転がっているだけなんて。若い人にも、もっと枡の良さを知ってもらいたくて、このショップをオープンすることにしました。」
面取りの工程
ショップには様々な人たちが来てくれるという。
「雑誌やネットで知って遠方からわざわざ買いにきてくれる人もいるんです。店内に並んでいるいろんな種類の枡を見て「面白い!」とか「大垣って枡の日本一なんですね!」と興味をもってくれる。」
経営者として、歴史と伝統を伝える者として
"枡"の魅力をたくさんの人に伝えたくて、新商品の開発を次々続ける大橋量器。
デザイナーや学生とコラボレーションするなど、新しい取り組みも精力的に挑戦している。そうして生まれた商品は枡のイメージを打ち破る新しい価値として、メディアに取り上げられることも多い。アンテナショップに続いてWEBショップも開設し、販路も拡大。さぞかし売り上げも好調で順風満帆かと思いきや、まだまだ課題はあるという。
「以前と比べたら、ずいぶん回復しましたけど、経営は今でも厳しい状況です。ユニークな商品は作るのに手間もコストもかかるので、利益率が低い。実は売れてもそれほど儲からないんですよ。新商品を作っても、安定した利益が確保できる仕組みを経営者として考えていくのが、当面の大きな課題ですね。」
"枡"が自然にある生活。+アイデアと匠の技を活かした大橋さんの挑戦は続いていく。
かつては日本の家庭に欠かせなかった"枡"。日本人の生活の中から消えつつある"枡"
は今、カタチを変えながら、もう一度私たちの生活シーンに戻りつつあるのかもしれない。
お話のあとショップを出ると、夏の日差しが戻っていた。
奥の細道むすびの地
大垣駅への帰り道、ふと見上げた大垣城は白い雲間から差し込む太陽の下、ひときわ堂々としてみえた。
(ゆき)
大垣城
スタッフ紹介
折戸 万智子
【職種】WEBショップの運営全般
【入社年】2007年10月
【血液型】B型
【興味のあること】
見た目とギャップがあるかもしれませんが、ハードロックとお酒が大好き。お店の枡で飲む日本酒は、格別です。
★ワタシPR★
WEBショップでの売れ筋は結婚式の席礼や引き出物セットなど、お祝いのシーンで使われる商品です。お買い物していただいたお客様のコメントを読むと私まで幸せな気持ちになります。社長はバイタリティがあって、意思がとても強い人。ブレないところがすごい。面白ければ誰のアイデアでも採用してくれるので、私が企画した商品もあるんですよ。「リョウマス」という商品で一合枡の2個セットで、なんと2つの枡を合わせると坂本龍馬の家紋が現れるんです。WEBショップで扱っているので、見てみてくださいね。
岡 美代子
【職種】木枡の組み上げ
【入社年】1993年くらい?
【血液型】O型
【ニックネーム】オカちゃん
【特技】みんな仲良しでにぎやかな職場なので、おしゃべりかな。
★ワタシPR★
枡づくりに携わって17年。美しく完璧な組み上げを心がけています。社長はいろんな事に挑戦していて、頭の中でいつも何か新しいことを考えている感じ。枡を広めるために東奔西走してくれています。でも現場のことも忘れないでね、社長。