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2011/10/27 update
生活を少し底上げするデザイン
ものにはすべてデザインがある。
その当たり前のことに改めて気付かされたのは、プロダクトデザイナー・舟橋慶祐さんの話を聞いたからである。
舟橋さんは、東海地域を中心に活躍するプロダクトデザイナー。水洗器具からプラスチック製品、ソフトクリームのコーンまで幅広いジャンルのデザインを手がけている。
お会いしたときの第一印象は「落ち着いた感じの、誠実そうな人」。
「人の生活にフィットして、長くつきあえるデザインを目指しています。見た目の奇抜さや流行を意識しない普遍的なデザインが僕のテーマ。」と話す舟橋さん。
なんだか舟橋さんご自身の印象と似ているな、と思った。自己主張しすぎてなくて控えめなんだけど、どこか印象に残る不思議な雰囲気を持っている。ノートパソコンで作品を見せてもらいながらのお話も、丁寧な説明と落ち着いた口調が印象的だ。
数々のコンペでの受賞経歴を持つ舟橋さんだが、そのキャリアはオフィス家具のデザインから始まったという。その当時に学んだこと、身につけた経験が今の舟橋さんの礎になっている。
国際家具デザインコンペティション
旭川2011でブロンズリーフ賞を
受賞
プロダクトデザイナーとしての基礎を学んだメーカー時代
学生時代は空間デザインやインテリアデザインを学んでいた舟橋さん。その専攻を生かし、空間デザイナーとしての就職を希望していたが、当時はいわゆる就職氷河期。仕事を選ぶ余裕などなく、営業や販売として就職した同級生も数多くいたという。
「そのなかで僕はラッキーな方でした。デザイナーとして就職できたんですから。」
就職したのは、地元のオフィス家具メーカー。家具は家具でも、舟橋さんが学生時代に作っていたのは天然木を使ったクラフト的な家具。
「入社した当初は戸惑いました。素材はアルミやプラスチック、求められるのは汎用性があり、大量生産できる製品のデザイン。」
自分の好きなデザインを自分の好きなように作れる学生時代とは、全然違うのだ。
「その頃デザインした製品はこういうものです。」と言って舟橋さんが見せてくれたのは、会議で使うホワイトボードや、オフィス内の間仕切りパーティション。すごくシンプル。
「ワクワクするようなデザインではないですね。当時は僕も若かったから、正直、堅くて目立たないデザインだと思う時期もありました。」
それでも舟橋さんは、そのオフィス家具メーカーに7年勤めた。
「学ぶことが多かったんです。素材の特性や製造工程など、プロダクトデザイナーなら必ず必要になる知識や経験を身につけることができた。」
素材の特性や製造工程を知らないとプロダクトデザイナーにはなれない。それを知らずに描いたデザインは、絵に描いた餅と同じなのだ。
コンペの作品を作ることで自分の中のバランスをとっていた
オフィス家具という堅いデザインを続けているうち、舟橋さんの中でもっと自由でおもしろいデザインもしてみたいという気持ちが徐々に強くなっていった。
「デザイン誌とか見ていると目につくんですよ。ユーモアのある雑貨や派手なデザインなんかに。でも仕事じゃそういうデザインはできないから、それなら作品としてコンペに出そうと、いろんなデザインコンペに挑戦しましたね。これはその頃の作品。今のテイストとはずいぶん違いますけど。」
たしかに、ちょっとした遊び心のあるポップなデザインで、かわいい。
「富山プロダクトデザインコンペティションで準グランプリを受賞した作品です。あと、これはデザイン・コンペティション海南で大賞を受賞した作品でドアフックです。」
どちらのコンペもプロダクトデザイン業界では大きなコンペ。審査員は深澤直人氏、喜多俊之氏、川上元美氏などなど。
世界で活躍する著名なデザイナーに評価してもらったことは、大きな自信になったことだろう。
「僕にとってコンペとは、自分のデザインレベルを知るための指針であり、仕事では出せないアイデアを発散する場。当時は、仕事とコンペの両方をやることで自分の中のバランスをとっていました。」
そう言われて、ふと思った。舟橋さんはとてもバランスのとれた人なんじゃないだろうか。外見や視線や話し方。どれも、何かに偏ったりしていないから強烈なインパクトはなくとも、どこか印象に残る雰囲気を持っている。きっと日常から自分自身のバランスを上手くとっているから、無駄な力が入らない自然体でいることができて、それが仕事にも表れているのかもしれない。
限られた条件だからこそ、やりがいがある
仕事とコンペ、その両方で上手くバランスをとりながらキャリアを積んだ舟橋さんは、オフィス家具メーカーを退職後、プロダクトデザイン事務所に転職し、主に工業デザインを手がけた。
「工場の溶接ロボットの部品とか、自動車用品、パチンコ関連機器なんかですね。一般に商品として流通するものではないし、まぁ、すごく専門的な世界。いかにもデザインされた、っていう製品じゃないけど、こういうものこそ難しい。」
舟橋さんはそこで1年修行をし、2008年、独立した。(※事務所設立は2009年)
「独立した当初は仕事がなかったです。もともと計画的に独立したわけじゃなくて、勢いだったんで(笑)。だからしばらくは、知り合いの建築事務所でアルバイトをしながら細々とデザインしてました。」
その舟橋さんに転機が訪れたのは、フリーランスになって1年ほど経った頃。知り合いのデザイナーにクライアントを紹介してもらったことから次第に仕事が広がっていったという。
「そのクライアントさんはプラスチック製品のメーカーで、これはそこでのデビュー作。」
「100円ショップで売られているもので、ゴミ箱なんですよ。」
と聞いて、ちょっと驚いた。100円ショップの商品もデザイナーがデザインしているとは・・・意外。
「最初は僕もデザイナーが百均商品を?!と思いました。でも実際やってみると面白いというか、やりがいがある。いろんな事を考えなければできないんです。たとえば素材、これは樹脂ですけど、100円で売るには使える量が決まっている。これ以上の量を使うと100円では売れない。その範囲内で、ゴミ箱としての容量と強度と機能を保ちつつ、見た目にも美しくなければいけない。」
ゴミ袋をかけるための
フックが付いている
限られた条件のなかで、いかに優れた意匠性と機能性を両立させるか。
上代100円という厳しい条件だからこそ、やりがいがあるというわけだ。
フックは持つ時の
グリップにもなる
みんなのためのデザイン
「僕は、世の中のデザインをボトムアップしたいと思っています。都会のインテリアショップで売られていたり雑誌に載っている商品は、確かに洗練されていてオシャレ。でも高価だったり、地方じゃ手に入らなかったりとかで、広く行き渡ることはない。そうじゃなくて、どこでも誰でも買えるもの、僕はそういうものをデザインしたい。100円ショップでも、ホームセンターでも。むしろそういう量販的なところのほうがいいくらい。一部の人のためのデザインじゃなく、誰もが手に取り、楽しむことができるデザイン。みんなのためのデザイン。それが広がっていけば、日本のデザインの底上げになるんじゃないかな、と思っています。」
そんな舟橋さんの最新のデザインは、
・・・植木鉢?
「そうです。これもプラスチック製品で、東京での展示会で発表された後、市場に並ぶ予定です。」
ただの三角柱ではなく、ちょっとひねっていたり、底の足や穴のディテールにこだわっているところが舟橋さんらしい。
植木鉢のCAD
フリーランスになり、いろんな製品のデザインを最初から最後まで、自分だけで手がけられるようになった舟橋さん。これからはどんな仕事をしてみたいのか聞いてみた。
「今はインテリア関係の仕事が多いので、これからはデザイン事務所でやっていた頃のような、いかにもインダストリアルな工作機械とか業務用の製品とかやってみたいですね。他にもいっぱいありますよ。ジュエリーとか装飾品の仕事もしてみたい。あと、もう一度オフィス家具もやってみたいです。」
堅くて目立たないと感じていたこともあるオフィス家具を?
「ええ。自分で言うのもなんですけど、メーカー時代の仕事って今見るとなかなか良いんですよ。俺、結構いい仕事してたんだなって(笑)。ただ当時はまだ若かったし、堅くて、自由度の低いデザインしかできない仕事だと思っていたけど、それなりに精一杯頑張っていたんですよね。もしかして今やっても同じようなデザインになるかもしれない(笑)。」
若い頃は、流行りや奇抜さ、目新しさを意識したデザインに目がいっていたという舟橋さん。30歳をすぎたころから、そのテイストが変わってきたらしい。
「テイストが変わったというか、デザインにおける哲学が変わったんですよね。」
底の穴はモザイクタイル
のようなデザイン
「昔はパッと見でわかりやすい、誰が見てもわかるデザインがいいんだって思っていた。でも今は違う。今は一見普通に見えるけど、よく見てみると、使ってみると、じわじわとその良さがわかるようなデザインをしていきたい。普通っぽいの『っぽい』が重要なんです。」
デザインされているなんてわからなくても、手に取ったものが、いつしかその人の生活に馴染んで、いつまでも愛されればそれでいい。
舟橋さんの落ち着いた口調の中に、静かな情熱、を感じた。
大橋量器のマガジンラックも
舟橋さんのデザイン
時代に翻弄されない普遍的なデザイン。人と調和し、じわじわとその良さを感じられるデザイン。誰もが楽しむことのできるデザイン。それは、普通っぽいけど普通じゃない。
まるで舟橋さんの人柄そのもののようだと思った。
(ゆき)
取材地:ナディアパーク デザインセンタービル7thCafeにて
デザイナープロフィール
舟橋 慶祐 (ふなはし けいすけ)
1975年 愛知県小牧市生まれ
1999年 名古屋芸術大学美術学部デザイン科SD専攻卒業
専門学校でCADを学び、オフィス家具メーカーに就職。その後、デザイン事務所を経て
2009年 KEISUKE FUNAHASHI DESIGNを設立。現在に至る
大同大学 情報デザイン学科 プロダクトデザイン専攻 非常勤講師
【主な受賞】
1999年 be sure「21世紀のソファ」デザインコンペティション 入選
2002年 130周年記念マーナデザインコンペティション 佳作
2004年 富山プロダクトデザインコンペティション 2004 準とやまデザイン賞
2004年 デザイン・コンペティション海南 the final 大賞(グランプリ)
2005年 6thシャチハタ・ニュー・プロダクト・デザイン・コンペティション 深澤賞
2009年 伝統産業革新アクション・プログラム 伝統工芸デザイン・コンペティション 優秀賞
2011年 国際家具デザインコンペティション旭川 2011 ブロンズリーフ賞
【主な展覧会】
2000年 21世紀のソファ展(東京デザインセンター)
2004年 デザインウェーブ・イン・富山 2004(富山県民会館)
2005年 デザイン・コンペティション海南 the final展(AXISギャラリーアネックス)
2005年 デザインウェーブ・イン・富山 2005(富山県産業高度化センター)
2005年 デザイン・コンペティション海南 the selection展(arcoデザインギャラリー)
2006年 富山プロダクトデザインコンペティション展示会(リビングデザインセンターOZONE)
2007年 再生 もったいある、暮らしのデザイン展(JR岐阜駅ACTIVE G)
2008年 全国伝統的工芸品まつり・ぎふ(岐阜メモリアルパーク ふれ愛ドーム)
2008年 にっぽんらいふ2008(東京ビッグサイト)
2009年 The 68th Tokyo International Gift Show 2009 AUTUMN(東京ビッグサイト)
2009年 NAGOYA DESIGN WEEK 2009(アサヒドーカメラ名古屋本店、JR岐阜駅ACTIVE G)
2010年 The 69th Tokyo International Gift Show 2010 SPRING(東京ビッグサイト)
2010年 NIPPON MONO ICHI(リビングデザインセンターOZONE)
2011年 国際家具デザインフェア旭川 デザインコンペティション入賞入選作品展(旭川市化学館)